選定の直前に起こった胆振東部地震は地域に大きな被害をもたらしました。
あれから3年、着実に進む復旧・復興のなかで、
まちの人たちの“灯”ともなったむかわ町の恐竜・古生物化石群を活かした
これからのまちづくりについて竹中町長にお話を伺いました。
海のむかわ山のむかわ
オールむかわで進む道
「むかわ町穂別の古生物化石群」が北海道遺産に認定されたのは、第3回選定の2018年。くしくも2018年9月胆振東部地震と同じ年である。
「町全体の財産として、これが北海道遺産として認められたのは大変光栄なことです。まだ発見されていない化石たちにとっても大変喜ばしく、大きな可能性がある話だと思います。」
竹中喜之町長は、このようにインタビューに応じた。
震災からの復興の途中でコロナ禍、町は困難のなかにいる。ポスト・コロナをどう生きるかを見据えて、竹中町長は「困難を乗り越えるレジリエンス(復元力)が必要なのです。」と続ける。震災から、コロナ禍から、復興の灯が必ず必要になる。その灯として恐竜、古生物化石群の存在がある。
「実は、むかわ町穂別の古生物化石群が北海道遺産に登録されたのは、2018年11月1日(灯台の日)です。時空をこえて過去から甦った、むかわ竜をはじめとした化石群が、灯として、むかわのレジリエンス(復元力)となる。そう願っています。」
「灯」という竹中町長の言葉は印象的である。2006年の市町村合併から今年で15年。海のむかわと山のむかわが一丸となって進む道を照らす灯。古生物化石群はそのような灯のひとつとなりえるのか。
恐竜、古生物化石群を
活かしたまちづくり
穂別博物館にはいると、まず、クビナガリュウ(エラスモサウルス科)ホベツアラキリュウ(通称ホッピー)が迎えてくれる。約40年前にこの博物館が建設された時、このクビナガリュウを主役に据えた。しかし、博物館を奥へと進めば、ほかの展示品の凄さに驚く。モササウルス・ホベツエンシス(1985年新種として発表)、メソダーモケリス・ウンデュラータス(1996年に新属新種として発表)、フォスフォロサウルス・ポンペテレガンス(2015年に新種として発表)が、展示されている。アンモナイトについても、新種が2013、2014年に相次いで発表されている。さらに二枚貝イノセラムス・ホベツエンシスなどのコレクションは素晴らしく、博物館スタッフによって「いのせらたん」というキャラクターが創り出された。なかなかシュールなキャラクターで私は好きである。
2021年には「カムイサウルス・ジャポニクス(通称むかわ竜)」の模型が部分的に博物館に展示された。さすが全身約8mにおよぶ国内最大の恐竜全身骨格化石。しっぽの部分がはずされているがけっこう窮屈そうで、新館建設が待たれるところである。穂別博物館、知れば知るほど、世界でも類を見ない貴重なコレクションを保管している。失礼ながら、こんな山の奥に、ひっそりと、こんなすごいものがあるとは想像していなかった。学問的に、ものすごい宝物庫なのではないだろうか。鵡川高校の「留学」制度を聞いたが、これは世界中から「竜学生」が来てもよいくらいなのではないか。
北海道から世界へ
重要な恐竜化石の発見が続く北海道だが、北海道遺産では、現在のところ「むかわ町穂別の古生物化石群」が唯一の古生物関係の遺産となっている。道内の「北海道恐竜・化石ネットワーク研究会」だけではなく、2018年に設立された「にっぽん恐竜協議会」でも、むかわ町は中心的役割を果たしている。穂別博物館のコレクションを見る限り、それも納得できる。道内の点と点を結んでいくだけではなく、日本全体の恐竜ネットワーク構築に乗り出せるだけの資源が、むかわ町にはある。日本だけではなく、世界へと広がるネットワークの中心にもなっていくだろう。一方で、竹中町長は冷静に語る。
「ここにしかない価値をむかわ町だけの宝にするのではなく、北海道、日本、世界にむけて価値の発信をすると同時に、この宝を磨いていきたい、活かしていきたいという想いがあります。もちろん、町だけではできないことも多いのですが、まずは町民で価値観を共有することが重要だと考えています。」
2021年に策定された「第2次むかわ町まちづくり計画」では、まちの将来像のコンセプトは「人とつながる、笑顔でつながる、未来につながるまちむかわ」と定められている。問われるのは、住んでいる人々、コミュニティの醸成や生業(なりわい)、にぎわい、あじわい、これらを意識していくこと。
「核心にあるのは「人のつながり」ですよね。」
北海道から世界へ。ただ、その礎となるのは、むかわの人であり、地域の宝としての「むかわ町穂別の古生物化石群」という灯なのだろう。
[Text:田代亜紀子]
TEL:0145-45-3141
営業 / 9:30〜17:00
休館日 / 月曜日・祝日の翌日・年末年始
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詳細を見る特設ページコンテンツ ------ 01北海道遺産20年を振り返って2001(平成13)年5月、北海道遺産構想推進協議会が設立、同年10月に北海道遺産第1回選定分25件が公表されました。それから20年、北海道遺産構想は、選定地域、北海道遺産を応援してくださる多くの企業・団体、数々の行事やイベントに参加してくださった方たち、多くの“担い手”の皆様の手で支えられてきました。
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詳細を見る特設ページコンテンツ ------ 03北海道遺産20周年・勝手に女子トーク北海道遺産を生み、育て、そして、成長していく様子を見守ってきた4人の女性。誕生秘話や辻井先生の思い出、北海道遺産への思いがいっぱいです。